寝ようとして電気を消したら、耳元で「プーン」と羽音がする。電気をつけると、どこにもいない。庭の草むしりを2時間しただけで、腕も足首も刺されている。蚊対策を調べ始めるのは、たいていこのどちらかの場面です。
先に答えを書くと、蚊対策は刺される時間と場所から、相手の蚊を決めて始めるのがいちばん近道です。昼に庭で刺すのはヒトスジシマカ、夜に寝室で刺すのはアカイエカ、冬にマンションで刺すのはチカイエカで、育つ水も効く道具も違います。
私は害虫駆除業者として年間800件以上の現場に出ていますが、担当はゴキブリ・ネズミ・ハチで、蚊の駆除は受け持っていません。この記事では、国立感染症研究所(現・国立健康危機管理研究機構)と東京都の資料、メーカー公式の使用方法をもとに、家のまわりの発生源・寝室・庭の3つの場面で何をすればいいかをまとめました。
蚊対策は、刺される時間と場所から相手の蚊を決めて始める
蚊対策は、まず「いつ・どこで刺されたか」で相手の蚊を決めます。昼に屋外で刺されたならヒトスジシマカ、夜に家の中で刺されたならアカイエカ、冬に建物の中で刺されたならチカイエカです。この記事では、この分け方を「刺される場面の3区分」と呼びます。

家のまわりにいる蚊は、ほぼこの2つのグループです。国立感染症研究所の葛西真治さんの資料によると、東京都新宿区で2003〜2020年に捕れた蚊2万6,091匹のうち、ヒトスジシマカが64.4%、アカイエカとチカイエカが35.1%でした(葛西真治「蚊媒介感染症の最新の状況について」厚生労働省)。つまり、ほかの種類を気にする必要はほとんどありません。
分ける理由は、育つ水の場所が違うからです。東京都の資料は、ヒトスジシマカを「活動範囲は半径100〜150mと狭いので、よく刺される場所の近くに発生源があることが多い」と書いています。アカイエカは数百mから数kmと広く飛ぶので、発生源が見つからないこともあります(東京都保健医療局「施設管理者向け 蚊の発生防止対策」)。昼に庭で刺されるなら、探す場所は自分の家と隣近所の範囲に収まります。
見た目でも分けられます。ヒトスジシマカは黒い体に白いしま模様があり、足にも白い輪があります。アカイエカとチカイエカは茶色っぽく、しまはありません。
ボウフラは約12日で蚊になるので、家のまわりの水を週1回捨てる
家のまわりの蚊を減らすいちばん確実な方法は、ボウフラが育つ水を週1回捨てることです。東京都の資料によると、ヒトスジシマカは夏なら産卵から約12日で成虫になります。週に1回水を捨てれば、ボウフラが蚊になる前に流せます。
東京都はこの理由を「蚊の成虫は、飛翔するため、防除が難しくなります」と説明していて、ボウフラのうちに止めることを対策の基本にしています。飛び回る成虫を1匹ずつ落とすより、水たまり1つを片付けるほうが、減る数がずっと多いということです。

見落としやすいのは、水を捨てたあとの容器です。国立感染症研究所の手引きは「ヒトスジシマカの卵は数ヶ月の乾燥に遭遇しても、いったん水に浸ると孵化してくる」と書いています(国立感染症研究所「デング熱・チクングニア熱等蚊媒介感染症の対応・対策の手引き」厚生労働省)。水を捨ててもバケツを上向きのまま置いておくと、次の雨で壁に付いていた卵がかえります。使わない容器は伏せるか、雨の当たらない場所にしまってください。
東京都が写真つきで挙げている発生源には、雨ざらしの道具や容器、くぼんだビニールシート、弁当の空き容器、古タイヤ、支柱や旗を立てる筒、水生植物の鉢などがあります。庭に出しっぱなしのたらいに雨水がたまっていたら、それだけで発生源になります。
古タイヤは片付けるか穴を開け、置いておくならコップ半分の塩を入れる
古タイヤは中に水がたまりやすく、捨てても水が抜けにくい発生源です。東京都は「撤去するか水がたまらないように穴をあける」よう勧めています。
すぐに片付けられない場合は、国立感染症研究所の手引きにある方法が使えます。「古タイヤにコップ半分ほどの塩を入れておくと、夏期の間ヤブカ類の発生を抑えることが期待できる」という記載です。冬用タイヤを庭に積んでいる家は、春に塩を入れておくだけでも違います。

10円玉を入れてもボウフラは防げるとは言えない
雨水ますや鉢に10円玉を入れるとボウフラがわかない、という話はよく見かけます。ただ、東京都や国立感染症研究所の資料には、この方法は出てきません。
話のもとは2006年の報道です。日本銅センターが日本環境衛生センターに委託した実験で、ボウフラの約9割が羽化しなかったという内容でした。ただし実験に使ったのは10円玉ではなく、繊維状の銅(銅ファイバー)です(GIGAZINE 2006年7月22日)。同じ記事が紹介している研究では、溶け出す銅の濃度は銅の繊維が銅線の4倍、銅板の18倍で、硬貨1枚とは条件がまったく違います。何枚入れれば効くかの裏付けもないので、10円玉に頼るより、週1回水を捨てるほうが確実です。
雨水ますは捨てられない水なので、網でふさぐか薬で止める
雨水ますは、水を捨てられない発生源です。東京都は雨水ますの泥だめを「幼虫の格好の生息場所」とし、ヒトスジシマカとアカイエカの両方の発生源対策として重要だと書いています。掃除で落ち葉や泥を取り除き、それでも出るなら、ふたの下を網でふさぐか、薬剤を入れます。
網でふさぐ方法は、神戸市と広島市が勧めています。神戸市は「雨水ますの中を掃除し、目の細かい防虫ネットをかぶせて、ふたをします」と案内しています(神戸市「蚊の対策」)。薬を使いたくない家は、まずこの方法から試してください。
薬剤を入れるなら、間隔の目安は半月から1か月ごとです。東京都中央区の保健所は、雨水ますから蚊が出る場合は「半月から1ヶ月ごとに蚊用の薬剤を投入」すると発生を抑えられると答えています(中央区「よくある質問」)。1回入れて終わりではなく、蚊の出る季節のあいだ続けるものだと考えてください。

雨水ますのボウフラにも使えるスプレーとして、アース製薬のヤブ蚊ボウフラジェットがあります。公式の使用方法では、雨水ますなどの発生源に水量70〜140Lあたり約1秒噴射します。茂みにまけば成虫の発生も約2週間防げると書かれているので、雨水ますと庭木の両方に1本で使えます。
ただし、このスプレーの成分はピレスロイド系(エトフェンプロックス)です。東京都の資料は、ピレスロイド系は「魚毒性が比較的高いため、魚のいる水系への使用には不適」としていて、製品の注意書きにも魚や水生生物のいる場所では使わないとあります。メダカや金魚のいる池、睡蓮鉢には使えません。魚のいる水は、水を足して入れ替える、目の細かい網をかぶせるなど、薬を使わない方法にしてください。
寝室で鳴る蚊は、電気をつけて壁と天井を探す
夜中に耳元で羽音がしたら、電気をつけて、まず壁と天井、カーテンを見てください。KINCHOは「蚊は飛んでいる時間よりも、壁や天井などに止まっている時間の方がはるかに長い生き物です」と説明しています(KINCHO「お部屋の中の蚊対策」)。電気をつけると消えたように見えるのは、飛ぶのをやめてどこかに止まっているからです。
寝室で刺す蚊は、多くがアカイエカです。国立感染症研究所の資料は、アカイエカの吸血を「夜間に吸血(寝静まった家の中)」と書いています。夜の蚊は、寝る前から部屋に入っていたものが多いということです。

もう1つのコツは、蚊取りを寝る直前ではなく、早めに使い始めることです。害虫防除技術研究所代表で医学博士の白井良和さんは「虫よけグッズは寝る直前ではなく、それよりも前から使っておく」と話しています(ソフトバンクニュース)。寝る前に部屋の蚊を落としておけば、夜中に起こされることが減ります。
なお、白井さんは同じ記事で、音を使った虫よけアプリや超音波虫よけについて「メスは聴覚が弱いので、まったく効果はありません」と話しています。人を刺すのはメスだけなので、音で追い払う道具に頼るのはやめておきましょう。
寝る前に部屋の蚊をまとめて落とすなら、ワンプッシュ式が手早く使えます。アース製薬のおすだけノーマットは、4.5〜8畳に1回押すと、蚊に約12時間効きます。公式の使用方法では、窓やドアを閉めて使います。
それでも毎晩入ってくるなら、入り口をふさぐ番です。網戸の開け方や玄関に吊るす虫除けの選び方は、虫除けの選び方の記事に書いています。玄関に吊るす虫除けは、箱に「防除用医薬部外品」とある製品でないと蚊には効きません。
蚊取り線香・電気蚊取り・ワンプッシュは、窓を開けるかどうかで選ぶ
部屋の蚊取りは、窓を開けて使うかどうかで選びます。窓を開けたまま使えるのは蚊取り線香と電気蚊取りで、ワンプッシュ式は窓やドアを閉めて使います。3つとも、蚊に効くと書けるのは箱に「防除用医薬部外品」とある製品です。
| 種類 | 製品の例 | 窓を開けて使えるか | 効く時間・広さ(公式の表示) | 向いている場面 |
|---|---|---|---|---|
| 蚊取り線香 | KINCHO 金鳥の渦巻 | 使える(窓や扉を開けた状態でも効く) | レギュラー1巻で約7時間。煙の広がる範囲が目安 | 縁側・玄関・庭先、窓を開けて寝る部屋 |
| 電気蚊取り(液体) | アース製薬 アースノーマット | 使える(窓を開けても効きめが続く) | 1日12時間使用で60日 | 毎晩使う寝室・子ども部屋 |
| ワンプッシュ | アース製薬 おすだけノーマット | 窓やドアを閉めて使う | 4.5〜8畳に1回で約12時間 | 寝る前に部屋の蚊をまとめて落とす |
国立感染症研究所の手引きには、蚊取りの使い方について見落としやすい一文があります。蚊取り線香や蚊取りマット、液体蚊取りには殺虫のほかに、蚊を寄せつけない効果や血を吸わせない効果も期待できるので「昼間からこれらの殺虫剤を使用する方法も効果的である」という記載です。昼に刺すヒトスジシマカが家に入ってくるなら、蚊取りは夜だけのものではありません。

窓を開けて過ごす部屋や玄関先には、蚊取り線香が合います。KINCHOは、屋内への侵入を防ぐなら玄関や縁側など、屋外と屋内の境目に置くよう案内しています(KINCHO よくある質問「金鳥の渦巻」)。
毎晩つけっぱなしにする寝室には、火を使わない電気蚊取りが向いています。アースノーマットは公式に「安定して薬剤が揮散するので窓を開けても効きめが持続します」とあり、1本で60日使えます。
使えない部屋もあります。KINCHOは、蚊取り線香を金魚や熱帯魚の水槽、カブトムシやスズムシ、爬虫類・両生類のいる部屋では使わないよう書いていて、おすだけノーマットも水槽や飼育かごのある部屋では使えません。赤ちゃんや犬・猫のいる部屋は、換気をすれば使えるとされています。
冬やマンションの上の階で刺されるなら、建物の地下の水を疑う
冬に部屋で刺される、マンションの上の階なのに毎晩出る。そういう場合は、チカイエカを疑います。東京都の資料によると、チカイエカはビルの地下の排水槽や湧水槽など、1年中環境が変わらない場所で育ち、「寒さに強く、屋内では冬でも活動するため、チカイエカによる吸血被害は年間を通じて発生する」とされています。
ヒトスジシマカは卵で冬を越すので、冬に成虫はいません。国立感染症研究所の手引きは、ヒトスジシマカの活動を主に5月中旬〜10月下旬としています。12月や1月に刺されたなら、庭の水たまりではなく建物の中に原因があると考えてください。
チカイエカは、ビルの地下の水槽からよく出ます。東京都の古い資料には「都内では、ビルの湧水槽の約2割でチカイエカの発生が見られます」とあります(東京都「チカイエカ」)。東京都の対策は、湧水槽や排水槽のふたを密閉し、通気管に18メッシュより細かい防虫網を付けることです。
この場合、住んでいる人が自分の部屋だけで対策しても、出てくる元は止まりません。地下の水槽は建物の共用部分なので、管理会社や管理組合に「冬でも蚊が出る」と伝え、湧水槽と通気管を点検してもらうよう頼んでください。
庭仕事の前に、茂みへ屋外用スプレーをまいておく
庭仕事で刺されるのを減らすには、始める前に茂みへ屋外用のスプレーをまいておきます。昼の庭で刺すヒトスジシマカは、国立感染症研究所の手引きによると「民家の庭、公園、墓地等の茂み等に潜み」、朝方から夕方まで血を吸います。草むしりで茂みに手を入れると、潜んでいた蚊が一斉に寄ってくるわけです。
手引きでは、成虫の対策として、屋外の植物の茂みの周囲に直接噴霧し、微風で風向きが一定のときに風上からまくよう書かれています。家庭のスプレーでも同じで、自分が風上に立ち、これから作業する茂みと地面にまいてから始めます。

作業前にまくなら、フマキラーのヤブ蚊バリアが使いやすいです。公式には、茂みにまいた場合に蚊を最大24時間防ぐとあります(天候や環境で変わります)。朝のうちにまいておけば、その日の庭仕事のあいだは効いている計算です。
肌の虫除けは、服で覆えない首・手首・足首に使います。手引きは、薄手の服の上からや、足首・首筋・手の甲でも刺されると書いていて、長袖・長ズボンにし、裸足にサンダルで庭に出ないよう勧めています。ディートとイカリジンの違いや、子どもに使える回数は虫除けの選び方の記事にまとめています。
自分で減らせないときは、保健所と自治会・管理会社に相談する
家のまわりの水を片付けても減らない場合は、発生源が自分の敷地の外にあります。公道の雨水ますや側溝は自治体の管理なので、市区町村の保健所に相談してください。このサイトで紹介している駆除業者には、蚊の駆除を公式に受け付けているところがありません。
自治体によっては、雨水ますの対策を自分たちでしています。東京都中央区は、毎年4月から10月まで区内の公道の雨水ますに薬剤を入れています。大阪府堺市は、自治会やマンションなどの団体が申し込めば、公共の雨水ますに入れる薬剤を無償で配っています(堺市「蚊の防除薬の無償提供」)。個人では申し込めないので、町内会や管理組合を通して頼む形になります。
家族が発熱したときは、蚊に刺されたことも医師に伝えてください。2014年8月には、約70年ぶりにデング熱の国内感染が確認され、感染者は162名に上りました。東京都の代々木公園は9月4日から10月30日まで閉園し、殺虫剤を5回まいています。東京都は毎年6月を「蚊の発生防止強化月間」にして、家庭にも水たまりの片付けを呼びかけています(東京都保健医療局)。
蚊対策は、刺される場面で相手を決め、ボウフラのうちに止める
蚊対策は、刺される時間と場所から相手の蚊を決めることから始めます。昼の庭ならヒトスジシマカで、家の半径100〜150mにある小さな水たまりを週1回捨てる。夜の寝室ならアカイエカで、雨水ますを網か薬で止め、蚊取りを寝る前から使う。冬のマンションならチカイエカで、管理会社に地下の水槽を見てもらう。
飛んでいる蚊を落とすより、水1つを片付けるほうが効きます。まずは今週末、雨どいから古タイヤまで家のまわりを一周して、たまっている水を捨てるところから始めてみてください。
よくある質問
蚊はいつからいつまで出ますか?
昼に刺すヒトスジシマカは、主に5月中旬〜10月下旬です(国立感染症研究所の手引き)。夜に刺すアカイエカは成虫で冬を越し、東京都の資料では早春から晩秋まで出ます。建物の地下で育つチカイエカは、冬でも屋内で刺します。
赤ちゃんや犬・猫がいる部屋で蚊取り線香を使えますか?
KINCHOは、赤ちゃんや犬・猫、小鳥のいる部屋でも、換気をすれば使えるとしています。使えないのは、金魚や熱帯魚の水槽、カブトムシやスズムシなどの昆虫、爬虫類・両生類がいる部屋です。
超音波やアプリの音で蚊は寄ってこなくなりますか?
効果はありません。医学博士の白井良和さんは、人を刺すメスの蚊は聴覚が弱いので、音を使った虫よけは「まったく効果はありません」と話しています。部屋の蚊には、防除用医薬部外品の蚊取りを使ってください。
冬に部屋で蚊に刺されるのはなぜですか?
建物の地下の排水槽や湧水槽で育つチカイエカの可能性が高いです。チカイエカは寒さに強く、屋内では冬でも血を吸います。マンションやビルなら、管理会社に地下の水槽と通気管の点検を頼んでください。